My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
「昨日“歌”を使っただろう。もしあれが完全に成功していたとしたら、結構な力を消耗したはずだ」
ルルデュールにラグを忘れて欲しくて歌った歌。
あのときはただ夢中で、一心にそれだけを願って歌ったけれど。
「まぁ、成功していたらの話だが」
もう一度そこを強調されてもう一度苦笑する。
――ドナのおばあちゃん、セイレーンであるノービスさんも自分のことを忘れさせるためにラルガさんに歌を歌った。
その歌の力は彼女自身が亡くなるまで続いた。
それが完全に成功したということなら、確かに自信はない。
「でもとりあえず今のところは追いかけてこないし、良かったね」
私が笑いかけると彼は急に眉間に皴を寄せこちらを睨み見た。
ぎくりとする。
ひょっとして、今更歌ったことを怒っているだろうか。
(昨日はお礼を言ってくれたのに……?)
「……前から言おうと思ってたんだけどな」
「う、うん?」
肩を窄めながら首を傾げると彼は口を開けたまま一瞬固まり、それからゆっくりと視線を外して小さく言い直した。
「いや、……前から言ってるんだ」
「え?」
良く聞き取れず訊き返すと、改めて彼が私を見た。
「お前は、他人のことより、もっと自分のことを考えろ」
「!」
その意外な言葉に、私は驚く。
「じゃねぇと、いつかお前が……」
そこで一旦、彼は言葉を捜すように視線を彷徨わせた。
私はじっとその続きを待つ。