My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
セリーンも腰に括られた革袋からコインを一枚出し放った。
「良いものが見られたな」
「……私、勘違いしてた」
私の呟きにセリーンは不思議そうな顔をした。
「この世界には、音楽っていうものが無いんだと思ってたの」
歌が不吉とされている世界だからと、勝手にそう思い込んでいた。
パケム島で初めて笛の音を耳にしたときにもひょっとしてと思ったけれど。
「この世界にも、音楽が在るんだ」
そこに“歌”は無かったけれど、久しぶりに音楽に触れられて胸のあたりが熱く疼いた。
「気が済んだなら戻るぞ」
「あ、ごめん。そうだね」
背後からの低い声に慌てて振り返る。
感激に浸っている場合ではない。アルさんと王子たちを待たせているのだ。
ため息交じりに背を向けたラグについて歩き出そうとした、そのとき。
「嬢ちゃん、ウエウエティルに興味あるのかい?」
大きな声に思わず振り返ると、先ほど太鼓を叩いていた40代ほどの男性と目が合った。
「え?」
「そう、嬢ちゃんだよ。さっき食い入るようにこれを見ていただろう?」
その人は日に焼けた顔でにっと笑い、トトトンっと手元の太鼓を鳴らしてみせた。
(うわ、恥ずかし……!)
かーっと顔が熱くなる。
皆が踊り子の女性に夢中になる中、楽器の方を凝視していた私。きっと目についてしまったのだろう。