My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
30.フォルゲン
「カノン、先生を連れてきたぞ」
セリーンに続いて部屋に入ってきたフォルゲンさんに私は頭を下げる。
「よろしくお願いします」
病院で診察を受けるときのように、少しの緊張を覚える。
私を見つめながらこちらに歩いてくる長身の彼。
「気分はどうかな」
「今は、少しぼーっとするくらいです」
一応そう答えると、彼は先ほどまでセリーンが座っていた椅子に腰を下ろした。
体格があまりに違うので昨日会った時にはわからなかったけれど、こうして近くで見ると目元がブライト君に良く似ている。
(やっぱり兄弟なんだなぁ)
「頭痛はあるかな?」
「い、いいえ」
「失礼するよ」
大きな手が伸びてきて私の耳の下に触れた。
それから目の下を軽く引っ張られ、最後に手首の脈をみてフォルゲンさんはうん、と頷いた。
「食欲は?」
「えっと」
お腹に手をやると、そこで空腹に気が付いた。
「はい。あります」
正直に答えるとフォルゲンさんはブライト君と同じ漆黒の瞳を細め、微笑んだ。
「なら何か食べるといい。しっかりと食べて休んでいればすぐに元気になるはずだ」
その笑顔と言葉に、ほわっと安心感が広がる。
街の皆に頼られているというフォルゲンさん。その人気の理由が少しわかった気がした。……でも。
「ありがとうございます」
私はもう一度頭を下げる。
――言わなきゃ。
ライゼちゃんのこと。ビアンカのことも。