My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
「実は、すぐそこの森の中にビアンカがいるんです」
「!?」
顔を上げた彼が、はっきりと動揺していた。
「ビアンカ様が……?」
「はい。ビアンカは私たちをこの国まで運んでくれたんです。でもこの国に来てからずっとこのお城を見つめたまま動かなくて……多分、フォルゲンさんがここにいることに気が付いているんだと思います」
大きな漆黒の瞳が揺れる。
私はその瞳を見つめたまま続ける。
「ビアンカに乗っていけば、数日でフェルクに着きます。帰れるんです。フェルクレールトに」
――そう、帰れるのだ。故郷に。
無理やり引き離された家族や仲間の元に、帰れるチャンスなのだ。なのに……。
「フォルゲンさん。ライゼちゃんやブライト君に会ってきてください」
「……」
再び目を伏せ黙ってしまった彼に焦れて、私は声を大きくする。
「フォルゲンさん!」
「私は、帰れない」
「っ!」
小さく呟かれたその答えにショックを受ける。
……全く予想していなかったわけじゃない。
でも、その答えを聞きたくはなかった。
(やっぱり、奥さんがいるから……?)
私が次の言葉を失っていると、それまで黙っていたセリーンが口を開いた。
「身重のリトゥースを置いてはいけない、か?」
ぴくりとその肩が反応する。
それを見て、一拍置いてから私も大きな衝撃を受ける。
(身重って……リトゥースさん、お腹に赤ちゃんがいるってこと!?)