My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
「ライゼも驚くだろうな。まさか、待ち続けていた婚約者が遠い地で別の女性と幸せに暮らしているなんてな」
皮肉たっぷりなその台詞にどきりとする。
いつリトゥースさんが妊娠していることを知ったのかわからないけれど、思っていたよりもずっとフォルゲンさんに腹を立てていたらしいセリーンがそのまま吐き捨てるように続けた。
「今更後ろめたくて帰れないのだろう。最低だな」
フォルゲンさんは俯いたまま何も反論しない。
――気まずい沈黙が流れる。
結局、次に口を開いたのは私だった。
「あの、せめて、元気な顔を見せに帰るだけでも……」
しかしフォルゲンさんは固い表情で首を横に振った。
「私は決めたのだ。この地で……私を受け入れてくれたこの国で、リトゥースと共に生きると」
――おそらく、彼が故郷を追われたのは大戦が終わったという5年ほど前。
それから、きっと色々なことがあったのだろう。
そして彼はこの国で、リトゥースさんに出会った。――でも。
「でも、ライゼちゃんは」
「ライゼ様には、ブライトがいる」
「え?」
再び顔を上げた彼が、微笑んでいた。
酷く、ぎこちなくはあったけれど。
「ライゼ様を一番想っているのは、昔からあいつだ。……君もあの二人に会ったのなら、ブライトの想いに気付いたんじゃないか」
「……」
否定出来なかった。ブライト君の気持ちは見ていてすぐにわかったから。
そんな私の表情を見て、フォルゲンさんはまた小さく笑った。
「私より、あいつの方がライゼ様に相応しいのだ」