My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
31.記憶の中の肖像
「デュックス殿下に夜会に誘われたぁ!?」
アルさんが素っ頓狂な声を上げた。
そして私が小さく頷くと口を開けたままちょっとの間固まってしまった。――まるで、先ほどの私のように。
先ほど、王子は驚き固まる私に花束を押し付けると「また来る」 と言って部屋を出ていってしまった。
扉が閉まり呆然と手の中の花束を見下ろすと、その中には昨日一緒に摘んだあの黄色いお花も入っていて。
「ふ、流石は兄弟と言ったところか」
「え?」
その声に顔を上げると、セリーンのなんだか面白がるような瞳が私を見ていた。
「で、どうするんだ。カノン」
「え、それで、カノンちゃんどうするの?」
先ほどのセリーンのようにアルさんに訊かれ、私はもう一度同じように答える。
「その、お断りしようと思うんです」
「あ、そうなんだ?」
拍子抜けしたような、でもどこかほっとしたような顔のアルさん。
――ここは、謁見の間と続き部屋になっている他に比べると少し狭い部屋。
ツェリウス王子とアルさんに会えないものかと様子を見に来たところ、扉の前にいた衛兵さんが私たちに気が付きこの部屋へ通してくれたのだ。
私も寝室を出てから知ったのだが、長い間病に伏していた王様を一日で回復させ、王子をも守った医師一行ということで、私たちは城内でちょっとした有名人になっていた。
ここに来るまでに何人の人にお礼を言われただろう。
ラグに対してもそれは同様で、例の偽名のお蔭もあってか誰も彼を恐れる様子はなく、かえって当人の方が戸惑っている様子だった。