My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
言い方は悪いがここでお城の関係者に恩を売っておけば、後々動きやすくなるかもしれない――そういうことだろう。
確かに未知のお城の中に知り合いがいたら何かと心強い。
それに、セリーンが男の人相手にこんなに饒舌になるなんて。余程ドゥルスさんを信用しているということだ。
(きっと術士だって言っても大丈夫な人ってことなんだよね)
セリーンは次にドゥルスさんに視線を向けた。
「ドゥルスも自分でわかっていると思うが、そのままにしておけば引退は避けられないぞ。最悪歩けなくなってもいいのか?」
「ぐっ……」
ドゥルスさんも低く喉を鳴らし、赤黒く腫れあがった自分の足を見つめた。
ラグがセリーンを鋭く睨み付けながら口を開く。
「お前が今すぐにここを出ていって、しばらく帰ってこないと約束するなら」
「あぁ。構わないぞ」
あっさりと承諾したセリーンに驚く。ラグも少し拍子抜けしたような顔。
早くドゥルスさんを治してほしいのか、それとも流石に昔お世話になった彼には自分の意外過ぎる一面を知られたくないのだろうか。
「では私はしばらく外に出ているとしよう。ドゥルスよ、すぐに治してもらうのだぞ。また後でな」
皆が見送る中、セリーンはさっさと家を出ていってしまった。
「カノン」
「え?」
ラグに目線で確認しろと言われ慌てて外に出る。だがもうその路地に彼女の姿は無かった。
首を横に振りながら戻るとラグは怪訝そうに眉をひそめた。
「なんだか知らねえが、セリーンがああも言うなら信じる他ねえな。頼む。さっさとやっちまってくれ、術士さんよ!」
覚悟を決めたようにドゥルスさんがラグに頭を垂れた。