My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
「そういえばドゥルス、お前には息子の他に確かもう一人娘がいたのではなかったか?」
話を変えようとしたのか、セリーンがドゥルスさんに訊いた。
だが彼の機嫌は治るどころか、更に眉を寄せその口元がぴくぴくと痙攣した。
「……もうここにはいねぇ。勝手に出ていっちまった」
「勝手にじゃないだろ? 親父がもう帰ってくるななんて言っちまうから」
「うるせー! おめえは黙ってろ!」
再び怒鳴り声を上げたドゥルスさんにクストスさんは再び重い溜息を漏らした。
「妹は今話したその医者の助手をしているんです。親父はその彼が気に入らなくて、ずっと反対していて」
「黙ってろって言ってんだろ!」
(あぁ。そういうこと)
思わず苦笑してしまうような話だ。
きっとその二人は恋仲か、ひょっとしたらすでに夫婦なのかもしれない。
娘さんもそのお医者さんも大変だなぁと他人事ながらドゥルスさんのその仏頂面を見て思った。
「そうだったのか。では今妹も城に?」
「えぇ、そのはずです。彼はこの国に認められた医者ではないのですが、この国の医者には無い知識や技術を持っているので、王の容体も回復すればいいのですが」
「けっ」
やはり面白くなさそうなドゥルスさん。
「ほう。ではこの国の人間ではないということか」
「えぇ、フェルク人なんですよ」
「え!?」
思わず大きな声が出てしまっていた。
そんな私の反応に少し苦笑してクストスさんが続ける。
「驚きますよね。でも大戦後にこの国に来てからあっという間に街の皆に馴染んでしまって。今ではこの国の医者以上に皆に頼られているんです」
フェルク人で、大戦後にこの国に来て、腕の良いお医者さんで……。
(それって、ひょっとして)
セリーンとラグに視線を向けると、二人も私と同じ可能性に行き着いたよう。