My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
そうだ。彼は宮殿内部のことを探るために術を使い、今こうしてセリーンに抱えられているのだ。
「あぁ、そうだったな。……実はな、ドゥルス。――と、すまない。息子は城の関係者か?」
「え?」
突然視線を向けられクストスさんが目を瞬く。
「こいつぁ城とは何の関係もねぇよ。毎日絵を描いてのうのうと暮らしてやがんだからな」
「な、なんだよ、母さんがいない間家のことは全部俺がやってるだろ!?」
恥ずかしそうに頬を染め、声を荒げたクストスさん。
言われてみれば家の壁にはたくさんの絵画が飾られていて、部屋の隅の方にもキャンバスらしきものが何枚も立掛けられていた。
(これ、全部クストスさんが?)
そのほとんどが風景画で、森から突き出た宮殿の塔の絵もあった。おそらく先ほどの私たちのように街から見上げて描いたのだろう。
素人目だが美術館に飾られていてもおかしくない素敵な絵ばかりで、思わず感嘆のため息が漏れていた。
「ほお、素晴らしい才能ではないか」
「あ、ありがとうございます! 実はいくつか宮殿内にも飾ってもらえているんですよ」
嬉しそうに話すクストスさん。だがお父さんはそんな息子のことを良く思っていないようで。
「男なら体鍛えてなんぼだろうが、ったく。で、なんだ、こいつには聞かれたくねぇ話なのか?」
「あぁ、すまないが。念のためな」
セリーンが言うと、クストスさんは慌てるように出口に向かった。
「すみません、気が付かず……。それじゃ親父、俺はしばらく店の方に行ってるから。あ、ゆっくりしていってくださいね」
そう笑顔で言い残し、外に出ていった。