My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
「店を出しているのか?」
「小せぇ店だ。まったく何が楽しいのやら俺にはさっぱりだがな」
「まぁ良いではないか。それで本題だが、実はなドゥルス。私たちもこの後城に上がることになっているんだ」
ドゥルスさんが訝しげに眉を寄せる。
「どういうこった」
「この子の治癒の術を見ただろう。これはまだ内密の話なのだが、この力で王の病を治して欲しいと、とある人物に頼まれていてな」
「術士を宮殿にか? そりゃまた思い切ったことを……。一体誰だ、そいつぁ」
「ツェリウス王子だ」
その名を聞いた途端、ドゥルスさんは目を剥き前のめりに立ち上がった。
「ツェリウス殿下が戻られたのか!?」
「あぁ。……いや、正確にはまだ城内には戻っていないが。今とある場所で待機してもらっていてな。この後合流でき次第共に上がる予定だ」
するとドゥルスさんは長い溜息を吐きながら再び腰を下ろした。
「そうか、殿下が……」
心底安堵したようなその表情に、セリーンは微笑んだ。
「余程王子のことを案じていたようだな。何やら派閥が出来ていると聞いたが、お前はツェリウス王子派なのか?」
「あ? いや、俺はどっち派とかそういうのは特に無ぇんだが、殿下が不在の間色々と良くない噂を聞いてな。ご無事なのがわかりゃ俺はそれで……」
「良くない噂とは、王子暗殺のことか?」
途端、ドゥルスさんの表情が変わった。
「……セリーン、おめぇどこまで知ってんだ」
こちらを見上げたその眼光は鋭く、この時初めて彼が王族を守る現役の騎士なのだと理解した。