My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
「もうすぐクレドヴァロールですよ。漸く宮殿に戻れますね、殿下」
「――も、もし僕が寝そうになったらすぐに起こせと言ったはずだぞクラヴィス!」
「とても気持ち良さそうでしたので起こすのが申し訳なく……。あぁ、朝のご挨拶が遅れました。おはようございます、ツェリウス殿下。空の上でのお目覚めはいかがですか?」
「最っ悪だ!」
案の定王子は機嫌悪く答え、ぷいと前を向いてしまった。
きっと不覚と悔しがっているに違いない。
この二人はずっとこの調子で、最初はそんなやりとりを聞いていてハラハラとしたが徐々にこれはこれで良いコンビなのかもしれないと思い始めていた。
クラヴィスさんは王子にどんなに酷いことを言われても笑って受け止め……いや受け流していて、それでも王子のことを本当に大事にしているのが伝わってきた。
(王子もなんだかんだ言ってクラヴィスさんのこと信頼しているみたいだし)
そうでなければいくら眠くてもこんな空の上でぐっすりと寝たり出来ないはずだ。――同じくぐっすりと寝てしまった私が言うのもなんだけれど……。
(そういう関係、ちょっとだけラグとアルさんに似てるかも)
そんなことを考え、こっそり笑っているとラグがこちらを振り向き一瞬どきりとする。
でも彼の視線は私よりも手前、クラヴィスさんに送られた。
「例の森まで案内してくれ。このまま真っ直ぐでいいのか?」
「えぇ……と、上空から見るのは初めてですので、もう少し陸が見えてきたらご案内出来ると思います」
「わかった」
そしてラグはまた前方を見つめた。すっかりビアンカの操縦士だ。
例の森とは、クレドヴァロールのお城の周りに広がる森のこと。その森の中に宮殿内部へと続く隠し通路の入口があるらしいのだ。――ちなみに王子はそこを通って城を抜け出してきたそう。当然のことながらその通路の存在を知る者はごく僅かであるらしい。
王子たちの護衛はその隠し通路の入口までで終了の予定だ。