My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
「デュックス殿下!」
クラヴィスさんの声が上がるより早く、私は駆け出していた。
(今のは絶対痛かった!)
両手で何かを持っているせいで、顔からもろに地面に突っ込んでいた。
まだその場所が石畳でなくて良かったけれど。
「大丈夫!?」
そう声を掛けながら近寄り、すぐに彼もこの国の王子様だったと慌てて言い直す。
「だ、大丈夫ですか?」
「うぅ~」
顔を押さえ小さく呻きながらデュックス王子はゆっくりと起き上がる。
その髪は聞いていた通り金色ではなかった。緩くウェーブの掛かった明るい栗毛。
ツェリウス王子に弟がいることは知っていたけれど、こんなに歳が離れているとは思わなかった。
まだ10歳前ではないだろうか。
そんな彼の周りに小さな花がたくさん散らばっていた。タンポポに似た黄色い花だ。
(そっか、これ持ってたから……)
私はその花を拾い集めて、デュックス王子の前に差し出した。
「どうぞ」
すると小さな王子様はゆっくりと顏から手を離しこちらを見上げた。
頬っぺたが片側すれて赤くなっていたけれど、思っていたより軽傷でほっとする。
でもデュックス王子の目にはいっぱいの涙が溜まっていて、しかしまだ零れてはいなかった。
必死に泣かないように頑張っているのだとわかり、
(可愛い)
思わずそう思ってしまった。