My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
確かに傷に触れられるというのは嫌なものだけれど。
それを見てツェリウス王子が呆れたように言う。
「デュックス。もうすぐ8歳なんだろう? このくらい怖がってどうするんだ」
「兄さま……。わ、わかりました」
お兄さんに言われ、ようやくデュックス王子は覚悟を決めたようだった。
「頑張ってください、デュックス王子!」
思わず声援を送ると、王子は緊張した面持ちで、でもしっかり頷いてくれた。
(やっぱり可愛い!)
「では、失礼して……」
アルさんに言われ王子はぎゅっと目を瞑る。
そして擦りむいた場所を直に触れられ、びくりとその身体を震わせた。
「癒しを、此処に……」
アルさんの優しい声。
その傷が治るのは本当にあっという間だった。
「はい。終わりましたよ」
「え?」
アルさんの手が離れ、デュックス王子は驚いたように目を開けた。
そしてゆっくりと自分の頬に触れる。
「……痛くない」
呆けたように呟く王子。
アルさんが笑顔で言う。
「それは良かった。では膝の方もちゃちゃっと治しちゃいましょうか」
「う、うん」
そしてアルさんは少し血の滲む膝にも手を触れ、こちらもすぐに治してしまった。
「他に痛いところはないですか?」
訊かれて、王子は首を振る。
「良かったですね、王子様!」
私が言うと、王子はやっと嬉しそうに笑った。
「あぁ!」
「な、驚いただろう」
お兄さんに言われ、王子は更にはしゃいだ声を出した。
「はい、凄いです! なんですかこれは!」
「これが術士の力だ」
「術士……?」
明るかった王子の顔が急に曇り、困惑の色が浮かんだ。