My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
「お二人とも、こちらです」
扉の前に立っていたクラヴィスさんが私たちを呼ぶ。その隣にはデュックス王子の従者であるフィグラリースさん。
そして廊下には更に数人、おそらくはお医者さんなのだろう男の人たちが青ざめた顔で立ち尽くしていた。ひょっとして、皆部屋から出されてしまったのだろうか。
クラヴィスさんは走ってきた私たちをすぐに中に入れてくれた。
王の寝室は昼間だというのに薄暗かった。扉が閉まってしまうとまるで夜中のようだ。
扉のすぐ横に控えていた使用人らしき女性が私たちに頭を下げてくれていることに気付き、私も慌てて頭を下げる。
中は控えの間の倍ほどの広さがあり、でも庭園が一望出来る大きな窓があるだろう壁には暗幕のようなカーテンが掛けられていた。だからこんなにも暗いのだ。
壁に取り付けられた燭台の小さな炎がこの部屋の唯一の灯りとなっているようだった。
そんな中聞こえてきた苦しげな呻き声にぎくりとする。
部屋の中心ほどに置かれた天蓋付きのベッド。そこに皆集まっていた。
(あそこに王様が……)
「父さま、父さま! しっかりしてください。新しいお医者さまですよ!」
ベッドの枕元で必死に叫ぶデュックス王子の背中があった。その後ろにアルさんが立っている。
その向かいには俯き表情の見えないツェリウス王子と、椅子に腰かけた髪の長い女性の姿。
(あれが、王妃様?)
ウェーブのかかった長い髪が顔に掛かりはっきりとはわからないが、線の細い綺麗な女性だ。
王様の様子はこの位置からでは見えない。
と、アルさんがこちらに気付き、深刻な顔で手招きをした。
ごくりと唾を呑み込んで、私はセリーンと共にベッドに近づいていく。