My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
「そうですか。ありがとうございます」
言ってアルさんがすっと立ち上がる。
パケム島でツェリウス王子から同じ話を聞いた彼もきっと、そのことに気が付いたはずだ。
「デイヴィス! 早く、さっきの力で父さまを治して!」
「……ツェリウス殿下、よろしいんですね?」
アルさんはこちらを全く見ていないツェリウス王子に訊く。
すると王子は瞬間びくりと身体を震わせてからゆっくりと首を回しアルさんを見た。
「効果があるかどうかはわかりませんが、治癒の術をかけてみます」
「あ、あぁ」
どうにか王子は返事をしてくれた。
「治癒の術……?」
その時、か細い声がした。
王妃様が顔を上げてこちらを見ていた。その顔はやはり綺麗だったけれど、可哀想なくらいにやつれてしまっていた。
まるで私たちに気が付いていなかったような、そんな表情の王妃様にデュックス王子が言う。
「母さま! さっき話したデイヴィスです! 僕の傷を一瞬で治してくれた……。だからきっと父さまも治ります!」
「なおる……?」
精神的にもかなり参ってしまっているのだろう。アルさんを見つめるその瞳はどこか虚ろで、とても痛々しかった。
そんな彼女に一礼し、アルさんは言う。
「精一杯やらせていただきます。……デュックス殿下、よろしいですか?」
言われて王子はすぐに場所を譲った。
アルさんは王様の枕元に立ち、その額に手を伸ばす。
息を呑んで見守る私たち。
微かにアルさんの息を吸う音が聞こえて――。
「癒しを此処に……!」
静かな部屋に凛とした声が響いた。