My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
「ふぃー、やっぱ暑ぃなクレドヴァロールは」
宮殿を囲む城壁を更に囲むように広がる森の中。ビアンカから一番に飛び降りたアルさんが辺りを見回しながらぼやいた。
ビアンカに乗っている間は気にならなかったけれど、森に降りた途端むっとした暑さに包まれた。パケム島のような海風も無く、少しでも歩けば汗が吹き出してきそうだ。
上空から見たあの水を湛えた美しい宮殿の中はきっといくらか涼しいのだろう。
そんなことを思いながら自分もビアンカの身体を伝いながら地面に降りる。彼女の硬い皮膚がひんやりと気持ち良かった。
もうお別れだと思ったらなんだか離れがたくて、王子たちが降りたのを確認するとペタペタとその皮膚に触れながら頭の方へと向かう。
すると、丁度ラグがビアンカに向かい何か話しかけているところだった。
「ラグもお礼?」
近寄り訊く。するとラグはこちらを一瞥し、またビアンカに視線を戻した。
「こいつがいなけりゃこんな短期間で移動できなかったからな」
「だよね。ビアンカ、本当にありがとう。帰ったらライゼちゃん達によろしくね」
彼女の長い首を撫でながらその赤い瞳を見上げる。
だが、ビアンカはこちらを見てはいなかった。
(いつもなら舌を出してくれたりするのに……)
私が小首を傾げていると横からも小さな溜息。
「降りてからずっとだ」
彼女はただじっと一点を見つめていて、私もそちらの方に視線をやる。
木々の向こうに見えたのは宮殿へと続く隠し通路があるという小屋。
しかし、彼女はその小屋を見ているわけでは無さそうで。
「城に何かあるのか?」
後ろからセリーンの声がした。
そうだ。あちらの方向には城がある。まさかビアンカもあの美しい城に興味を惹かれたのだろうか。
そんなことを考えたときだ。