My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
でも今それを何に使うのだろう。
じっと見ていると、王子はそれを扉の中心にある凹みにあてがった。
その凹みはぴったりと楽器がはまる形になっていて、王子は更に奥へと楽器を押し込む。
と、ガチャンと言う音がして鍵が開いたのだとわかった。
「それが鍵になっているのか」
セリーンの驚いた声。
王子をあの金色のモンスターへと変身させる他に、あの楽器にはこんな役割もあったのだ。
「あの、それって王様やデュックス王子も持っているんですか?」
訊いてみると、王子は扉を押し開けながら答えてくれた。
「いや、僕はこれひとつしか見たことが無い」
そして扉から外した笛を再び首へ掛け直した。
その部屋の中はツンとカビ臭く、まるでサウナの中のように熱が籠っていた。
ひとつしかない鍵を王子が持っているなら、ここは一ヶ月以上ずっと閉め切ったままだったことになる。
王子も顔をしかめ、すぐに2つある窓を開けに行った。
両方の窓が開くと気持ちの良い風が中に吹き込んできた。
「あ、街が見える!」
そう、窓からは先ほどまでいたヴァロール街のオレンジ屋根が見渡せた。
ひょっとしてと思いその手前の森を見下ろしてみたけれど、残念ながらビアンカの姿は確認できなかった。
「ひえー、この中の全部確認してくのかよ」
最後に部屋に入ってきたアルさんが悲鳴じみた声を上げた。
そう、この部屋も壁一面にずらりと本が並んでいたのである。
ざっと千冊はあるんじゃないだろうか。
ラグも眉根を寄せその量を見回している。
「王子はこれ全部読んだんですか?」
訊くと王子は首を振った。
「まさか。気になったものだけだ」
「例の呪いに関する書物は?」
「これだ」
王子はすでに手にしていたその本をラグに見せた。