My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
「あ~あ、やっぱこの暑さじゃティコは無理かぁ」
聞こえてきた声は言わずもがな、アルさんのもの。
パケム島でもらったティコのお菓子は結局すぐに食べてしまい、それからこの数日間で何度彼の口からティコという言葉を聞いたか知れない。
隣からは怒気の籠った盛大なため息。しかしラグが呆れる気持ちも流石にわかってきていた。
だがそんなアルさんのぼやきに、思いもよらないところから答えがあった。
「ティコならあるぞ」
ツェリウス王子だ。
「へ?」
アルさんもまさかそこから返事があるとは思わなかったのだろう、短く声を上げ王子の方を見た。
この暑さに慣れているのか、涼しげな顔で王子は続ける。
「この国じゃティコは飲み物で、ティコラトールと言うんだ」
「飲み物!? ティコを飲むのか!?」
アルさんの目がはっきりとわかるほどに輝いた。
続いて、王子と同じくこの暑さを全く感じていないような爽やかな笑顔でクラヴィスさんが答える。
「はい。ここでは昔からティコは飲み物で、儀式のときなどに飲む大変貴重なものなのですよ」
「飲みたいか?」
クラヴィスさんの言葉に被るように、王子がアルさんを見上げ訊いた。
(王子?)
こんなふうに王子が積極的にアルさんに話しかけるのは初めてのこと。
アルさんも流石に不思議に思ったのか、
「そりゃ、飲めるもんなら飲みたいですけどね」
そうこめかみ辺りを掻きながら曖昧に答えた。
「そうか。なら僕と共に宮殿に来るといい。飲ませてやる」
「え」
「殿下?」
クラヴィスさんが声を上げる。
「確かに貴重なものだが、僕が言えばいつでも飲むことが出来る。いつでも、好きなときにな」
「殿下、一体何を」
クラヴィスさんがもう一度声を掛けるも王子はそれを無視し、アルさんに真剣な眼差しを向け続けた。
「だから、お前僕の側近にならないか?」
「はい?」