My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
10.波立つ心
ラグの青い双眸が大きく見開かれるのを見て、私は背を向けそのまま書庫を飛び出した。
――無性に腹立たしかった。
今までも言われてきた言葉なのに、今までとは全然違った意味に聞こえた。
ぐるぐると螺旋階段を駆け下りながら胸中で独り言ちる。
(利害が一致してるから一緒にいる……? 違う)
少し寂しい関係だけれど、仕方がないと思っていた。
それでもこの世界でいつも一緒に居てくれることに感謝していた。嬉しかった……。
でも、気が付いてしまった。
(ラグにとって私は、あの笛と同じ、呪いを解く道具なんだ)
無く(居なく)なったら困る。だから探してくれる。
壊れて(死んで)しまっては困る。だから護ってくれる。
でも。
(……だから、呪いが解けてしまえばもう必要が無くなる)
要らないモノになる。
今になって、そのことに気が付いてしまった。
――オレから離れるな。
彼の口から出た、らしくないあの台詞も今ならわかる。
「本当に、そのまんまの意味だ」
最後の一段を下りて、呟く。同時に乾いた笑みが漏れていた。
言われたことのない気障な台詞に動揺したりして……馬鹿みたいだ。
いつの間にか滲んでいた涙に気が付いて、それがまた悔しくて、早く引っ込むように強く擦る。
「カノン」
その声に驚き振り返ると階段上にセリーンがいた。追ってきてくれたのだ。
気遣わしげなその表情に、私はなんとか笑みを返す。
「ごめんね、急に大きな声出して。ついイラっと来ちゃって。いつものことなのにね」
下りてくるセリーンを見上げながらハハハと苦笑する。