My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
「……プラーヌス様も余程切羽詰っていると見える」
(え?)
急に声音が変わった気がして見上げると、彼はいつもの爽やかな笑顔を返してくれた。
「それにしても不思議な縁ですね」
「で、ですね!」
私も釣られて笑顔で頷く。
「厨房へ行かれるのでしたら、こちらの廊下の突き当りを左に行くと厨房のある別棟への渡り廊下がありますよ」
「ありがとうございます。行ってみます!」
「あ、ラグさんは」
その名を聞いて、ぎくりと足が止まる。
「奴なら当分出てこないと思うぞ」
「そうですか……」
若干トーンの落ちたその声を聞いて、私はまた歩き始めた。
――名前を聞いただけで、こんなにも心がぐらつくなんて。
最後に見た大きな青い瞳が瞬時にして蘇った。
そんな自分に焦りを覚える。
(どうしよう。こんなんじゃ……)
「しかし、これほどまでに胸糞悪いとは」
「え!?」
心を読まれたのかと思い驚いて振り返る。
「あのヘタレメガネを先生などと……今になって鳥肌がっ!」
「あ……」
見ると確かに彼女の腕にびっしりと細かいぶつぶつが出来ていて思わず苦笑してしまった。
やはり本人も違和感半端なかったよう。
お蔭で、どうにか気持ちを切り替えられた私はセリーンの隣に並んで言う。
「うまくフォルゲンさんとだけ話出来るときがあればいいんだけど……なんか難しそうだね」
話がしたいと向こうから申し出てくれたのは良かったけれど、あの調子では奥さんのリトゥースさんも確実に一緒だろう。
「そうだな」
セリーンも難しそうな顔。
なんにしても早くアルさんにこのことを伝えなくては。
(そして、王子をもう一度説得しなくっちゃ!)
私たちは急ぎ二人のいる厨房へ向かった。