My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
宮殿と厨房があるという別棟とを繋ぐ外廊下を進んでいくと、風に乗ってパンの焼ける良い香りがしてきた。
そこでそういえば朝から何も食べていないことに気が付く。
(そろそろお昼かな)
空を見上げてみたが、お日様は真上にあるようでここからでは見えなかった。
その時、声が聞こえてきた。
「いくら殿下の頼みでもすぐには無理ですって」
女性の声だ。
セリーンと視線を交わし足を速める。
その建物の扉を開けると、すぐそばにいたアルさんがこちらを向いた。
「セリーン、カノンちゃんも、どうした?」
その向こうにツェリ王子、そして白い布を頭に巻きエプロンを付けた50代程の女性。
先ほどの声はきっとこの人だろう。
広い厨房の中では他にも数人の同じ格好をした女性達が忙しそうに働いていた。
四方の壁には鍋など様々な調理器具が掛けられ、奥には大きな石窯も見えた。きっとそこでパンを焼いているのだろう。
中央の大きなテーブルには盛り付け途中の皿がたくさん並べられ、空腹の自分にはどれも堪らなく美味しそうに見えた。
思わず出てきてしまった生唾を呑み込んで私は言う。
「あの、アルさんと話したいって人が、」
「いつなら出来るんだ?」
被るようにして王子の不機嫌な声。
(……もしかして、ティコラトールの話?)