My Favorite Song ~異世界で伝説のセイレーンになりました!?~ 4
対する女性は困ったように答える。
「ですから、今は見ての通り皆手一杯でして、せめて夕刻までお待ちいただけたら」
彼女、きっとこの厨房の中で一番のベテランなのだろう。王子とも話し慣れている感じだ。
「あの殿下、無理ならそんな急ぎでなくても俺は……」
アルさんが慌てた様子で間に入るが、王子は全く気に留める様子なく続けた。
「夕刻だな、必ずだぞ」
念を押すように強く。
いくら王子様でもそんな態度で大丈夫なのだろうかとこっちが心配になってしまう。でも、
「承知いたしました。出来たらすぐにお部屋へお持ちいたしますので」
彼女はそう優しい笑顔を王子に返し、恭しく頭を下げた。
(……なんか、王子の我儘にも慣れてる感じ)
王子はそんな彼女に頼んだぞと一言告げ背を向けると、私たちの横をすり抜け厨房を出て行ってしまった。
「あ、じゃあすいませんが、よろしくお願いします。楽しみにしてますんで」
苦笑しながらぺこりと頭を下げたアルさんにも彼女は笑顔でわかったよと答えていた。
王子を追いかけ外に出たアルさんに続いて、私たちも一礼し厨房を後にする。
「で、二人はどうしたんだ?」
すぐにアルさんに訊かれて、私は改めて口を開いた。
「あの、実はアルさんに会いたいって人がいて、」
「その呼び名はやめろ」
「え?」
先を行っていた王子が急にこちらを振り向いた。