A Z T E C | 年上ドクターの甘い診察
後ろで夏帆が呆れたように声を出した。
視線の先を見ると、
空からパラパラと降り始める雨。
曇った灰色の世界が広がり、
なんだかちょっと肌寒い。
「え、雨!傘持ってないよね、今日降らないって言ってたから」
そう言って、梨香も空を見上げている。
しばらく入り口近くのテレビを見ていたら、
画面の中で傘を持ったリポーターが
雨足が強くなると話していた。
今のうちに駅まで行けば、
なんとかなると決心した3人は
雨の中を小走りで進み始めた。
「よし、行くよー!」
久しぶりに感じる外の世界。
濡れる〜なんて走りながら、笑い合う3人。
雨だろうが雪だろうが、
杏には新鮮で嬉しかった。
信号が変わるだびに歩く地面の色が変わり、
通りすぎていく車のライトや、
雨の音、雨の匂い、
この少し冷たい気温。
すべてをありのままに感じて楽しんだ。
そんな中、一台の黒い車が、
3人の横を通り過ぎて行った。