恋は、二度目のキスのあとで―エリートな彼との秘密の関係―
「白石。少し落ち着いたか?」
「あ……はい」
まだ近距離から見つめてくる瞳にうなずく。
北川さんは注意深く私の表情を見たあと、肩を離すと代わりに私の手をとった。
「冷たいな。しびれは?」
「少し……北川さんの手、あったかいですね」
まだ呼吸は落ち着ききらない。
そのせいで声が震えてしまい、そんな私に、北川さんはわずかに眉を寄せ……それから、私を抱き寄せた。
キュッと優しく抱きしめられ目を見開く。
自分の呼吸うんぬんよりも、北川さんの女性恐怖症が心配になり、なにも考えられなかった頭が一気に冷静さを取り戻したようだった。
「き、北川さん……?」
容易に話しかけたら刺激してしまうだろうか。
不安に思いながらも声をかけると、ややしたあとで「成長しただろ」と返ってきた。
成長……は、している。
指先が触れるだけで精一杯だと話していた北川さんが、自分から私を抱きしめているのだから、ものすごいレベルアップだ。
けれど……北川さんの心臓がトクトクと速い速度で動く音が胸から聞こえてくるので、ただ喜んでばかりもいられない。
落ち着いてきた私のそれよりも速そうだ。
もしもここで倒れられたら、今の私の状態で支えられる自信がない。
「あの、北川さん、心臓がすごいですよ」
「腕のなかにいるのが白石だって念じていないと頭がおかしくなりそうだ」
上から聞こえてきた声に、思わず、ふふっと笑う。
声を聞く限りは、緊急事態というわけではなさそうだった。