恋は、二度目のキスのあとで―エリートな彼との秘密の関係―

「もー、ただの噂だし、そんな落ち込んだ顔しなくても大丈夫だって」

私が思いつめた顔をしていたからか、柿谷先輩は励ますように明るい声で言う。
顔を上げると、笑顔の先輩が私を見ていた。

「私も、誰かに聞かれても『それ、勘違いらしいよ』って打ち消す噂流しておくから」
「でも……」

事実だし、そこを否定したら先輩が嘘をついていることになってしまう。
それを危惧して止めようとしたけれど、先輩は「ああ、平気平気」とカラッと笑う。

「うまく誤魔化すし。だから白石も、バカ正直に向き合わないで適当にかわしなね。そういう相手はどうせなに言っても揚げ足やらマウントやらをとりにくるんだから。誰になに言われても知らぬ存ぜぬで通したほうがいいよ」

励ますどころか、対処法まで考えてくれる柿谷先輩に、笑顔を作って「はい」と返事をする。

その笑顔が頼りなく映ったからか、先輩は不安そうな顔で私を見ていた。


お昼休み、社食でいつも通り、ひとり食事を終えたときだった。
食器返却口の前で声をかけられ、振り返れば知っている顔があった。

営業二部の宮崎さんだ。
パンツスーツを着こなした、スラッとしたスタイルで美人な宮崎さんは、社内でも有名で知らない人はいないほど。

一度も話したことがない私が知っているのがいい例だ。
社内きっての肉食という噂も、宮崎さんの名前を社内に広めることに一役買っているのかもしれない。

彼女に狙われておちなかった男性社員は、北川さんと瀬良さんだけだなんて噂もある。
北川さんは女性恐怖症だから仕方なく指を咥えて見ている状態で、瀬良さんに関してはずっと誘っているのに上手にはぐらかされっぱなしらしいと柿谷先輩が教えてくれたのは先月。

でも……宮崎さんに誘われたらその気になってしまうのも納得できる。


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