恋は、二度目のキスのあとで―エリートな彼との秘密の関係―


驚いたあまり、しばらく声を失ってしまったけれど、それは宮崎さんも、もっと言えば観客と化している三十人の社員も同じようだった。

真顔で立っている北川さんを見たまま、全員が固まっている。
社食中の視線を集めながら、北川さんが宮崎さんを見て言う。

「女性恐怖症を克服するために、半ば強引に頼み込んで白石に協力してもらっていた。ふたりきりの空間で感情的な言葉を交わすよう頼んでそうしてもらっていただけだ。それが傍から見たら喧嘩しているように見えたのかもしれない」

「え……あ、そうなんですか……」

目をパチクリとさせた宮崎さんがなんとかそう頷くと、すぐに北川さんが続ける。

「噂になってしまったようで、白石には申し訳ないことをしたと思っている」

淡々と説明した北川さんが「他に質問は?」と聞く。
未だ事態を飲み込み切れていない様子の宮崎さんは、北川さんの圧に押されてか「いえ、ないです……」と小さな声をこぼした。

それを見た北川さんは「そうか」とうなずき、社食をあとにする。
カツカツとわずかに響く革靴の音が徐々に小さくなる。思わず視線で追うと、北川さんは社食を出て少ししたところで右に曲がった。

エレベーターホールに向かったのか……とぼんやりと考えてから、あることに気づきハッとした。

けれど、わざと平然を装う。
せっかく北川さんが庇ってくれたのだから、それを無駄にするようなことはしたくない。

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