恋は、二度目のキスのあとで―エリートな彼との秘密の関係―


宮崎さんは、一度は北川さんを狙ったって話だ。
でも、女性恐怖症がどうにもならなくて、仕方なく諦めたって柿谷先輩から聞いている。

つまり、北川さん自身も、宮崎さんの自分への好意は知っているはずで……。
そんな宮崎さんと対峙したことで、北川さんがかなりメンタルを削ったのは容易に想像ができた。

でも、そんな北川さんを心配して慌てて追ったりしたら、今度は私と北川さんの噂が立ってしまうかもしれない。

それは、北川さんにとっても私にとっても避けたい。
だから、あえて北川さんの後は追わずに、立ち止まったまま宮崎さんに笑いかけた。

「実は私も、その……恐怖症で。それを克服しようと試みてたら、それを知った北川さんが協力を仰ってきたので、たまに話してたんです。すみません。北川さんに迷惑がかかるかと心配して、なかなかハッキリ言えなくて……」

困ったような笑みを向けると、宮崎さんは複雑そうな顔をしながらも「え、ああ……いえ、こちらこそ」と謝ってくれる。

「事情があったのね。そういえば、ここで瀬良さんに話しかけられても迷惑そうにしてるって話も聞いた気がするけど……」
「あ、そうなんです。距離感が近すぎるとダメで……」
「そうなのね。ごめんね、事情も知らずに呼び止めて」

北川さんが私を選んだ理由として〝恐怖症同士〟だけじゃ弱いかもしれない。
そんな心配は杞憂に終わる。

宮崎さんのターゲットは瀬良さんだって話だから、北川さんと私がふたりでいようとどうでもいいらしかった。

「じゃあ、私はこれで」

このやりとりはきっと、社内中に広まるだろう。
そうすれば瀬良さんとの噂は、北川さんと私が恐怖症同士仲良く練習しているというものに上書きされる。

そこにホッとすればいいのか新たな焦りを感じればいいのかわからないけれど、とりあえずこの場が収まったことに胸を撫でおろして、社食を後にした。


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