恋は、二度目のキスのあとで―エリートな彼との秘密の関係―
「浮気したんだろう」
白石を裏切った瀬良に、嫉妬する資格はない。
傷つけておきながらなにを今更……と呆れていると、瀬良は「そんなことまで話してんのか」と気に入らなそうに笑ったあとで俺を見る。
「浮気って、俺にとってはなんでもないですけどね」
「ひどい男だな」
恋愛観は自由だ。それでも聞き流せずに言うと、瀬良は「だって」と続ける。
「俺にとってはキスもセックスも千絵と以外意味ないっていうか……どうでもいい作業なんですよ。気持ちがないんだから」
そう言い切った瀬良がまたグラスを煽る。
ひとりで帰れないくらいに酔われても困る。とりあえずバーテンダーに水を頼んでいる間も、瀬良はひとりでぶつぶつと話していた。
「あの日だってそうだった。モデルの先輩だったし、でかい出版社の社長令嬢だったから、下手に断ると面倒で、それで……。モデル界隈では有名なひとだったんだよ。新人はとりあえず食うみたいな。だから別に、俺に特別な感情があるわけでもないし、登竜門くらいのつもりでしかなかった」
瀬良の横顔を眺める。白石が、何年と見つめ続けたであろう横顔を。
「俺、昔からひとつのことって長く続かなかったけど、モデルだけは頑張ってて、それを千絵も褒めてくれてたし応援だってしてくれてた」
視線を落としていた瀬良が、俺を見て苦笑いを浮かべた。
「北川さんならわかるだろうけど。でかい会社になると、プライベートのことだとしてもトラブルが起こった場合、個人の話には留まらないケースもあるでしょ。会社同士の話になる。俺の事務所は小さかったから……余計に。俺が先輩を怒らせたら、他の所属モデルに迷惑がかかるのがガキの俺にもわかった」
出版社や芸能事務所のことはわからない。
けれど、普通の会社同士の付き合いの問題なら身に覚えがあった。
恋愛は個人の自由と謳いながらも、立場のある役員や、その血縁者が関わっているとなればそうもいかない節もある。