恋は、二度目のキスのあとで―エリートな彼との秘密の関係―
白石と瀬良が話しているところを見たのは、モデルハウスの一度きりだ。あの時の白石はだいぶヒートアップしていたように思うから断言はできないが、確かに瀬良への態度は冷たいのかもしれない。
白石からしたら、ツラい思い出のある相手だし、忘れたがっているのだから当然だろう。
それを瀬良が気づかないとも思えないのだが。
「可能性がないからと、諦めたりはしないんだな」
意外に思いそう漏らすと、瀬良はしばらく黙ったあとで、ふっと笑みを浮かべた。
「だって俺はやっぱり千絵が好きだから」
ハッキリとした声だった。
「あいつが嫌がってるのはわかってる。迷惑がってんのも。それでも……だって、再会できたら、チャンスだって思うでしょ。だから簡単には諦めてやれない」
そこまでしっかりと言い切った瀬良は、急に気が抜けたようにへなへなとテーブルに突っ伏した。
緩んだ表情と赤い顔を見れば、酔っ払いそのもので、気分が悪いわけではなさそうだ。
単に、アルコールが許容量を超えて寝たのだろう。
ひとりで酔いひとりで話して、白状して後悔して……忙しい男だ。
そういえば、と、いつだったか白石が話していたことを思い出す。
『基本的には優しいんですよ。機嫌を損ねると面倒だったりもしたけど、感情を隠さないから一緒にいると楽しかったんです。よくも悪くも子供っぽいひとだったんだと思います』
確かに白石の言う通りだ。瀬良は、よくも悪くも子供すぎる。
付き合っていた頃も、ただの幼馴染だった頃も、きっと白石が大人になって瀬良を甘やかしていたんだろうということが容易に想像できた。
そして、白石もそれでよかったのだろう。
建て前ばかりで過ごしている瀬良が、白石の前でだけ見せる本音。それがたとえどんなにわがままで子供っぽくても、白石にとってはそれが嬉しかったのだろう。
そうしてとられていたバランスが、浮気をきっかけに崩れ落ちたということか。
どこまでも包み込むような優しさを持つ白石が、信頼していた瀬良に裏切られ、ひとりでどれだけ悲しんだのだろうと思うと、自分のことではないのに耐えきれないものがあった。
『だって俺はやっぱり千絵が好きだから』
さきほどの瀬良の言葉を思い出し……困ったことになったと、目を伏せる。
タクシーに無理やり乗せるとして。
瀬良の家ってどこだ。