恋は、二度目のキスのあとで―エリートな彼との秘密の関係―
噂が広まって一週間。鎮静はしていないけれど、盛り上がってもいない状態が続いていた。
普段だったら、男女の噂なんて相当おもしろがられてしまうところだけれど、結果的にいうと今回に限ってはそうはならなかった。
北川さんの恐怖症は会社中に知れ渡っているので、他人が苦しんでいることを、そしてそれを克服しようと努力していることを、そこまでおもしろがれないというのが社員の反応のようだった。
北川さんという、社内きってのビッグネームの噂にも関わらず〝治るといいよね……〟と静かにささやかれている程度に収まったことは、奇跡に近いと思う。
そして私も恐怖症ということになっているためか、周りから変な視線を感じることも、ひそひそ話をされることもほとんどなく過ごせていた。
その部分に関しては嘘なので少し胸が痛いけれど、そういうことにしておいたほうが絶対に平和なのはわかっているため、甘んじることにした。
『これで、白石とふたりで食事していても、逃げる言い訳ができたな』という北川さんには笑ってしまった。
だって、それは言い訳じゃなくて事実だから。
私は、北川さんの先生だ。そこに関しては嘘ではない。
そんなわけで、結果的に北川さんとふたりで会っていても社員は納得してくれる状況にはなったものの、だからといって目撃されるのは避けたい。
むしろ、噂になっている今だからこそ避けたい。
いくらそこまでの害はない噂だとしても、早いこと鎮静するに越したことはない。
それは北川さんも一緒だったようで、待ち合わせに指定されたのは会社の最寄り駅から二駅離れた、しかも路地裏にあるカフェだった。
細い道に人通りはほぼなく、駅からそう離れていないのにここは静かだった。
北川さんはお店の中に入っているように言ったけれど、なんとなく外の空気に当たっていたくて、カフェの看板横で立って待つことにする。