恋は、二度目のキスのあとで―エリートな彼との秘密の関係―
夕飯を済ませたあと、柿谷先輩に誘われ温泉に向かう。男性社員は、旅館の外に出たひとも多いみたいだった。
目当ては、ラーメンやらお酒やら色々だけれど、なんにせよお腹が出そうなものばかりなので、女性社員はついていかず温泉にゆっくりつかるひとが多い。
今日の旅館の温泉は冷え性によく効くらしい。他の女性社員は〝どうせなら美肌効果がある温泉がよかった〟と言っていたけれど、柿谷先輩と私にとっては嬉しい限りだった。
今は夏だけど、冷房の効いたモデルハウスに一日中いると体が冷え切る。
なので、体の芯から温まろうと、ふたりしてゆっくりとお湯につかった。
「あー……カップルがいちゃついている」
温泉に入ったあと、飲み物でも買おうと売店に向かうと、その途中にあるベンチにカップルが座っていた。
男性の髪色が派手な茶色なところを見ると、うちの社員ではなさそうだった。
ふたりとも浴衣だし、この時間にまだ館内にいるということは温泉だけ入りにきたわけではなく宿泊客だろう。ということは部屋をとっているはず。だったら部屋で存分にいちゃついてくれればいいのに……と思わずにはいられなかった。
「あそこまでふたりきりの空気出されると、前を通りにくいですよね……」
誰が通ってもおかしくない廊下で、軽いキスまでしているカップルを眺めながら言うと、柿谷先輩が嫌そうな声を出す。
「ね。っていうか、部屋に入ってからすればよくない? 学生ならまだしも、いい大人が公共の場で恥ずかしい」
「聞こえますから。……遠回りしていきます?」
あのカップルの前を通る勇気はない。だから回り道を提案すると、柿谷先輩は「そうだね。悔しいけど」としぶしぶうなずいた。
よかった。変に張り合って〝いや、私たちが遠慮するのはおかしい。行こう!〟なんて言い出さなくて。
ゆっくりと温泉に入ったから、体がポカポカしていてまだ温かい。それを冷ますようにスローペースで歩いていると、柿谷先輩が言う。