恋は、二度目のキスのあとで―エリートな彼との秘密の関係―
顔を上げると、営業部の田村さんがこちらを見ていた。瀬良さんの先輩だ。柿谷先輩から聞いた話だと、瀬良さんがこっちに異動してくる前までは、田村さんがずっと営業成績トップを維持していたらしい。
短い髪も誠実そうな顔立ちも、たしかに営業向けかもしれない……と思いながら「お疲れ様です」と会釈する。
「田村さんもなにか買われるんですか?」
「温泉入ったら喉乾いちゃったから。……ああ、いいよ。それ、一緒に買うから」
私が持っているパックジュースを指して言われ、慌てて首を振った。
「いえ、大丈夫です」
「いいからいいから。二百円もしないようなものを遠慮されても俺も困るし」
でも、たとえどんなに安いものでも田村さんに奢ってもらう理由はない。
変な借りを作りたくないので、失礼なくらい遠慮したのだけれど、最後は奪うようにお会計されてしまい、諦めるしかなかった。
「はい」
「……ありがとうございます」
役職についているような男性社員がこういうことをするのはまだわかるのだけれど、田村さんは私と五つも離れていない。
どうしてここまで強引に奢ろうとするのだろう……と、なんとなく腑に落ちずにいると、「そこのベンチでちょっと話さない?」と言われ、豆乳を死守してでも自分で買わなかったことを後悔した。
奢ってもらった手前、断れない。
「どうせ部屋戻って飲むなら、ここの方が景色も楽しめるし」
笑顔でベンチを進める田村さんに、諦め、内心ため息をもらしながら「はい」とベンチに腰を下ろした。