恋は、二度目のキスのあとで―エリートな彼との秘密の関係―


「あの、寒くなってきちゃったので私、そろそろ……」

嘘をついて立ち上がろうとしたところで「瀬良のことだけど」と言葉を遮られた。
その声が今までの明るいトーンとは違う気がして思わず黙ると、田村さんは私を見て目を細める。

その顔も、今までとはどこか違って見えた。

「袴田さんに言い寄られてたの見た? 瀬良、どこに行ってもああだし、もし、付き合ってる子がいたら気が気じゃなくて大変なんじゃないかな」

目を合わせたまま「どう思う?」と聞かれ、ややしたあとで首を傾げた。

「……さぁ。どうですかね」

どうして田村さんは私にこんなことを聞くんだろうと考えていた。
瀬良さんと私の関係を知っているのは北川さんだけだ。少し前に流れた噂を信じてこんなことを言ってきているんだろうか。

そう考えていたけれど、田村さんが言ったのは違う理由だった。

「瀬良って、基本アルコール強いんだけど、疲れてるとき……っていうか、弱ってるときって言ったほうがいいのかな。そういう時は変な酔い方するんだよ。前、ふたりで飲んでたとき、一回だけそうなってさ。散々聞かされたよ。白石さんと付き合ってた頃の話」

私が予想していた理由だったら、まだ逃げようがあった。ただの噂でしかないって言い張ればよかった話だ。
けれど……田村さんが告げた理由は、はぐらかそうにも無理だった。

瀬良さんが本当に自分で言ったかはわからない。でも、以前、似たような話を北川さんからも聞いているだけに、田村さんが言っていることが嘘だとは思えなかった。

別に、バレたところで過去のことだし大きな問題はないけれど……あまり広めてほしい話でもないのは確かだった。

人通りのない静かな廊下。
田村さんがなにを思ってこんな話を持ち出してきたのかがわからない以上、なにを言ってもやぶへびになる気がして黙っていると、そんな私を見て田村さんが笑う。


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