恋は、二度目のキスのあとで―エリートな彼との秘密の関係―


持っている資格と言えば英検くらいの私が、どうしてよく話したこともないひとの健康状態を、こんなにも気にかけなくてはならないんだろうとは思うものの、仕方ない。

『冒険だった』なんて言うってことは、北川さんもそれなりの勇気で私を待ってくれていたんだろうし……と考えていると、襖の向こうから「失礼いたします」と店員さんの声がし、続々と料理が運ばれてきた。

フィレステーキに、ホタテ貝のバター焼き、アナゴの握り、だし巻き卵に、豚肉の梅しそ巻き、そしてじゃこサラダにアサリのお味噌汁と、北川さんが注文を済ませておいてくれた料理がどんどんとテーブルに並んでいく。

それを見る私の目が輝いていたからだろう。北川さんが「とりあえず、食べるか」と勧めてくれるから、どう見てもひとり分ではない量だということも手伝い、お言葉に甘えることにした。

正直、よく知りもしない北川さんとご飯なんか食べたところでなぁ……なんて思ってもいたのだけど、これはレベルが違う。この料理を前にして喜ばないなんて嘘だ。

未知の味にワクワクしながら箸を伸ばし……それを途中で止める。

「あ、北川さん。私がお箸つけたあとじゃ嫌でしょうから、どれも先にとってください」と最初お願いすると、北川さんはわずかに苦笑して「どれも白石が好きなだけ食べたあとでいい」とお皿を私に寄せた。

「あの、レディーファースト的なことなら気にしていただかなくて大丈夫ですよ」
「誘ったのは俺だ。同じ皿から料理をとるのが嫌な相手ならそもそも誘わない」

真面目な顔で言う北川さんに、さすがにそれは半分意地で言っているんだろうなぁとは思ったけれど、言わなかった。

そもそも私には女性恐怖症に対する知識がない。
さっき、ここに来る途中に少し調べただけだから、なにがセーフでなにがアウトなのかの線引きがわからない。

とりあえず、あまりにじっと見つめたらダメなんだろうと、適度に視線を外しながら聞く。

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