恋は、二度目のキスのあとで―エリートな彼との秘密の関係―
「あの、嫌なら答えてくれなくていいんですけど。女性が触ったもの全部が菌に侵されたように思えるとか、そういうわけではないんですか?」
私がお箸をつけたあとで、やっぱり食べられないなんてなっても困る。私ひとりでこの量は無理だし、残すのはお店側に失礼だ。
北川さんは、やや難しい顔をして答える。
「少し違う。相手から触られることには嫌悪感があるが、たぶん、自分から触る分には問題ない。触りたい、もしくは触ろうと思えているんだからな。苦手意識を持ってから、そう思えたことはないが」
「そうなんですか……」
ちなみに何年前からなんだろうとは思ったものの、聞かずにおく。
私と今一緒にいるうえで困ることは聞いた方がいいけれど、それ以上は聞くべきじゃない。
デリケートな問題だし、北川さんは見た感じ、あまりガンガン聞かれたくなさそうだ。個室にふたりという今はとくに、いらないことはしない方がいい。
「別に潔癖症ってわけではないし、極端な話、白石の食べかけでも口にできる……と思う。だから俺のことは気にしなくていい」
「そうですか……じゃあ、遠慮なく。よければ北川さんの分もとりわけましょうか?」
自分のぶんだけもりもり取り分けているのも気が引ける。だから声をかけると、北川さんはふっと笑ったあとで「頼む」と取り皿を私に渡してくれた。