恋は、二度目のキスのあとで―エリートな彼との秘密の関係―


「あ、はい。どうぞ」

手が触れ合わないように注意しながらお茶碗を手渡す。
それを受け取った北川さんは「ありがとう」とお礼を言ったあとで、「実は、頼みがある」と私を見る。

私も、自分のぶんの鯛めしをよそったあとで姿勢を正すと、北川さんがゆっくりと口を開いた。

「女性恐怖症を少しでも克服できるよう、俺に協力してほしい」

和テイストのゆったりとしたBGMが控えめに流れる店内。
じっと見つめられ、パチパチと瞬きをしてから、ゆっくりと首を横に振った。

「え。嫌です。無理です。本当に」

そういった知識がなにもない私が、克服のお手伝いなんてできるわけがない。
それに、相手は北川さんだ。会社の女性社員になんて知られたら、嫉妬でなにを言われるかわからない。

ただでさえ瀬良さんのせいで気持ちが忙しいっていうのに、これ以上穏やかな仕事ライフを乱す要因は作りたくない。

即答で断った私を、北川さんはなおも真面目な顔で見て続けた。

「無理を承知で頼んでいる。報酬なら出す」
「報酬……? え、お金とかですか? だとしても無理です。っていうか、なんかお金もらったら何かしらの法律に引っ掛かりそうで怖いですし」

「別に売春しろって言っているわけじゃないし、ただのバイトと思ってくれればいい」
「嫌ですよ。うちの会社、副業禁止じゃないですか。それに北川さんだったら頼みを聞いてくれる女性なんていくらでもいるでしょ」

私じゃなくちゃならない理由なんてない。
だから「別を当たってください」とお願いすると、北川さんは〝わかってない〟とばかりに首を横に振った。

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