恋は、二度目のキスのあとで―エリートな彼との秘密の関係―
「ほんとだ。おいしいですね!」
「そうだろ」とわずかに目を細める北川さんに「これ、お出汁だけの味じゃないですよね、なんだろう……」と話しかけていてハッとする。
そろそろと目をそらした。
「あの、やらないですよ。私。もちろん、ここのお料理はどれも絶品でしたけど、いくらこんなおいしいご飯ご馳走になったところで……」
「誰がご馳走してやると言った」
「え」
思わぬ返事に驚いていると、北川さんは鯛茶漬けをレンゲで食べながら言う。
「頼みを聞いてくれるならそのつもりだったが、断るんだろ?」
「え、待って。待ってください」
はしたないとは思うものの、その場でお財布を出し中身を確認するも、現金は六千円しか入っていない。
お財布に高額を持ち歩くのが嫌いという、なんだかわからない好き嫌いが仇になってしまった。
「あ、でもカードなら……」
「今日は機械の故障で現金でしか支払いができないそうだ」
「そういえば、そんなことを……」
店員さんはしっかり言っていた。
その時は、注文しなければいいと考えていたし、お店の雰囲気に圧倒されてあまり気にしていなかったけれど、でも、たしかに。
「ちなみに、白石がうまいと言って食べていたフィレステーキだけで一人前二千六百円する。このあと、白石が悩んだ末、ふたつ頼んだデザートもくる」
「それは……だって、北川さんが『そんなに悩むならふたつ注文すればいいだろう』って勝手に注文しちゃったんじゃないですか!」
「食べるのは白石だろ」