恋は、二度目のキスのあとで―エリートな彼との秘密の関係―
あくまでも冷静に言われ、どんどんと追い詰められていく気分だった。
私はお願いされている側だ。
それなのにどうして逃げ道がなくなっているんだろう。
「ちなみに俺は他人に金は貸さない主義だ」
ダメ押しのように言われ、自然とふるふると首を横に振っていた。
「こんな卑怯なことをしておいて堂々と宣言する神経がわからない……」
女性恐怖症でも、仕事はきっちりとこなす、できるひと。
今まで私が北川さんに抱いていたイメージがガラガラと音を立て崩れていくようだった。
勝手だ。勝手すぎる……ともういっそ呆れていると、箸を置いた北川さんが目を伏せたまま言う。
「俺だって必死なんだ。このままじゃ仕事に影響する」
これまで無機質だった声に、わずかに感情がこもる。
その変化に気づき思わず言葉を失っている私を、北川さんの真面目な眼差しが貫く。
「白石。頼む。俺に協力してくれ」
昔から、どちらかといえばお人よしだった。
そのせいで嫌な思いをしたこともある。
けれど……。
「言っておきますけど。私は資格もなにもない素人ですよ。頼まれたって、できる範囲のことしかできませんから。それでもいいなら……すみません。情けない話ですが、お金がないのでご馳走していただいてもいいですか……」
眉を寄せ口を尖らせながらの言葉だって言うのに。
北川さんはホッとしたように微笑んでいた。
このひとのきちんと笑った顔を初めて見た。