恋は、二度目のキスのあとで―エリートな彼との秘密の関係―


さっきよりは離れたけれど、それでもまだ近い場所にある顔に、ドキドキと胸がうるさく跳ねていた。
凝視できずに目が泳いでいるのが自分でわかるほどだ。

「なに?」

思ったよりも強いトーンになってしまった。
でも、こんな場所で近づいてくるのだから仕方ないと自分を正当化していると、私の声色にか、眉をひそめた瀬良さんがテーブルから手を離す。

普通の社員同士の距離感になり、ホッと胸をなでおろした。

「昨日の。ちゃんと引き継いでくれたか気になったから」

後ろ頭をかきながら言われる。
「昨日の……」と繰り返したあとで、瀬良さんから預かったメモ書きを思い出す。

「あ、貫井さんの床暖房の件?」
「そう」
「昨日のうちに業者に連絡を入れて、今日中に貫井さんに電話を入れるよう伝えてあるよ。貫井さんにも業者から電話が入ることは話したし。今年の秋くらいまでに使えるようになればいいって言ってくれてるし、時間はあるから問題ないと思う」

わざわざ確認しにくるほど重要な依頼だったのかな、と思いながらも答える。

あの案件は、修理なり交換なりで話がついたら業者からアフターに連絡がくる手はずになっている、と説明すると、瀬良さんは「ふぅん。ならいいけど」と軽く返事をしたあとで、「ところでさ」と話題を変えた。


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