恋は、二度目のキスのあとで―エリートな彼との秘密の関係―
資料を見ていた北川さんが視線を上げ言う。
今日、北川さんが指定したのはイタリアンだった。
会社から、駅とは逆方向に少しいったところにあるお店は、奥まった場所にあり、知らなかったら飲食店だと気づかず素通りしてしまうような外観だった。
通りから数段下がった場所にあるドアを抜けると、そこには白いレンガを基調とした造りの店内が広がっていた。
カウンター席が何席かと、四角い四人掛けのテーブル席がいくつかあり、奥に進むと個室がある。
北川さんと私はその個室のひとつで向かい合って座っていた。オリーブ色のソファが白いレンガとよく合っている。
北川さんがオーダーを終えたところで、私のプレゼンが始まったというわけだった。
「これでチェック入れていってください」
私から受け取ったボールペンを北川さんが握る。
それから、〝主な原因〟と見出しをつけ箇条書きにしているものをひとつずつ、ボールペンで消していく。
「違う。これも違う」とチェックを入れていた北川さんの手が止まったのは、〝女性にひどく裏切られた〟の項目だった。
チラッと覗き見ると、北川さんはその項目に視線を留めたまま黙っていて、その態度から話したくないんだろうなというのがわかった。
「心配しなくても、探るようなことはしません。いくら私が早くこの役目から解放されたいって言っても、トラウマを抉っていくのは心が痛みますし、なにより私も後味が悪いですから」
自分の資料の、〝女性にひどく裏切られた〟の項目にチェックをしながら続ける。