恋は、二度目のキスのあとで―エリートな彼との秘密の関係―
「……さて。掃除だ」
棚のほこりを払ったあと硬く絞った雑巾でそこを拭き、それからソファのクッションの位置を直す。
今日みたいな平日、モデルハウスを訪れるお客様は基本的に少ない。土日祝日なら営業もひとりふたりこっちにヘルプにつくけれど、平日モデルハウスで接客を任されるのは事務の女性社員ひとりだけだ。
とは言っても、隣に本社があり、そこには営業も設計もデザイナーもありとあらゆるプロがいるから、必要になったら電話一本入れればいいだけで、私が任せられているのはアンケートの記入のお願いとお茶出し、ハウス内の案内くらいだ。
ちなみに、私、白石千絵が配属されているのはアフターサービス部で、主に修理やクレーム等の手続処理を任せられている。
元は総務の担当だったモデルハウスの受付がいつの間にかアフターサービスに押し付けられ、すでに二年が経とうとしているけれど、とくに不満はない。
いつも、修理や改装など、家の困った部分を相談されることが主だから、モデルハウスに来て、明るい未来を夢見て目をキラキラさせるお客様と触れ合うと救われる思いだ。
……しかし。
「……相変わらずだなぁ」
モデルハウスの前には、数台分の駐車場があり、その向こうは飲食店がたくさん並ぶ大通りがある。そこに向かい歩いていく背中を眺めながらひとり呟く。
意識しないようにしても、やっぱりどうしても目がいってしまう自分に嫌気が差しながらも遠くなっていく瀬良さんの背中を見つめた。
庶務部の誰々と食事に行っただとか、営業部の誰々に告白されたらしいだとか、瀬良さんにまつわる噂は社内に溢れている。
どれが事実なのかは知らないけれど、あれだけあるならどれかしらは本当なんだろう。
黙っていても言い寄られる瀬良さんがフリーなんてことは、ありえない。周りが放っておかないはずだ。
……とそこまで考えたところで、瀬良さんたちとすれ違うように、ある人物が大通りからこちらに向かって歩いてくるのに気づく。