恋は、二度目のキスのあとで―エリートな彼との秘密の関係―


テーブルに置いたままの携帯を掲げて見せると、北川さんがふっと笑う。

〝リハビリ〟〝精神的〟〝追い詰めない〟のみっつの単語で検索したページには〝まずはただのおしゃべりから入りましょう〟と書いてある。

それを見て笑ったんだろう。

「助かる。続けてくれ」

昨日よりも柔らかい表情をしている北川さんにホッとしながら、携帯をテーブルに置き口を開いた。

「いいですか。私は昔、北川さんを傷つけた女性ではありません」
「ああ。わかってる」
「それと同様に、社内の女性社員もそこらを歩いている女性も、北川さんを傷つけた女性ではない。北川さんを傷つけた女性は世界でひとりしかいないんです。
全人類が七十億人として単純に、一/三十五憶です。再会するなんて、とてつもない可能性の低さです。それを念頭に入れてください」

「……ああ」

三十四億九千九百九十九万九千九百九十九人は、その女性じゃないと説明する。

「あと、言っておきますけど、全員が全員北川さんをカッコいいと思うわけではありませんから」

ビシッと言い、続ける。

「そりゃあ、北川さんは一般的に言う美形ではありますけど。みんな、好みが違いますから、北川さんが生理的に無理って女性だってたくさんいるんです。
バレンタインに周りを囲まれたって聞きましたけど、それだって全員ただの義理チョコだったかもしれないですし」

「ああ」
「いくら外見が整っていて仕事ができたところで、誰かを好きになるってそういうことだけじゃないと思うんです。綺麗事に聞こえるかもしれませんが、中身だって大事です。
だから、誰でも彼でも北川さんに惹かれるわけじゃありません。周りの女性が自分を恋愛感情を通して見ているという認識があるなら、まずそこを修正しないと」

力説していると北川さんは少し呆けたあとで、表情を緩める。

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