恋は、二度目のキスのあとで―エリートな彼との秘密の関係―


「北川さんって、器が大きいですね」
「いや、普通だろう。なにより、俺のためにしてくれていることに文句を言う意味がわからない」

ドアが三回ノックされ「デザートをお持ちしました」と店員さんが顔を見せる。

「彼女に」と北川さんが言うと、私の前にジェラートとケーキの盛り合わせが置かれた。
白く平たいお皿には、チーズケーキとチョコレートケーキ、桃のジェラートにはミントの葉が添えられていて、見た目にも可愛い。

北川さんがデザート用のフォークを渡してくれるから、お礼を言いながら受け取った。

「さっきの話ですけど」
「怒る怒らないの話か?」
「はい。たとえばこれが……私の忘れられないひとだったら。きっと怒りますよ。怒るっていうか、落ち込んで面倒くさいことになります。〝俺のこと悪く言わないでほしい〟って」

〝俺のためだとしても、千絵だけには俺のこと少しも悪く言わないでほしい〟
そう拗ねる瀬良さんが浮かぶようで、苦笑いがもれる。

いつだって、私のなかの〝一番カッコいい〟が自分じゃないと嫌なひとだった。
テレビを見ていても『俺とどっちがカッコいい?』なんて面倒なことをよく聞かれたっけ、と思い出す。

意地悪して答えないと『俺だよね?』と少し不安そうに、そして不機嫌を覗かせて聞いてくるのが可愛かった。
『どうだろう?』なんてさらに意地悪を言うと『そういう冗談は好きじゃない』と本気で怒るから面倒でもあったけれど。

桃のジェラートを口に入れると、すっきりとした甘さが口に広がる。
「おいしいです」と感想を告げた私に、北川さんは「そうか」と言ったあとで聞く。

「そういえばしっかり聞いたことがなかったな。どんな男だ?」



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