恋は、二度目のキスのあとで―エリートな彼との秘密の関係―


北川さんの前には食後のコーヒーが置かれていた。
湯気がふわりと浮かんでいて、その様子が北川さんと重なり、首をひねりたくなる。

ふわふわ優しい蒸気と北川さんが重なった理由がわからなくて。

でも……そうか。

メッセージのやりとりは文字だけだから、ドライで棘の多いひとに思えてしまっていたけれど、こうして話しているとそんなことはないのかもしれない。

寛大だし、無理やり会話を切ろうともしないできちんと最後まで聞いてくれる。ご飯をゆっくり食べている私をせかそうともしない。

最初、このお願いをしてきたときこそ強引だったけれど、きっとあれがイレギュラーだったんだ。
それだけ必死だっただけだ。

「どんな……そうですね。感情の起伏が激しいかな。人懐っこいようで、気を許すのはほんの一部のひとだけなんです。それ以外のひとに対しては、プライべートでもそれ以外でも常に計算で接している感じです」

瀬良さんが誰にでも愛想がいいのも、空気を読んだような態度をとるのも、すべてその場を適当にやりすごすため。
つまりは演技だ。

本当の瀬良さんはもっと子供っぽいし、わがままだ。

そんな彼が、私には本当の顔を見せてくれていることに優越感を抱いていた。そしてそれはたぶん今もどこかで感じているのかもしれない。

「計算高い男か」と漏らした北川さんに、慌てて口を開く。

「あ、でも、基本的には優しいんですよ。機嫌を損ねると面倒だったりもしたけど、感情を隠さないから一緒にいると楽しかったんです。よくも悪くも素直すぎるひとだったんだと思います」

高校の頃の瀬良さんを思い浮かべながら話すと、ややして「別れた理由は?」と聞かれるから……目を伏せた。

「……一度された浮気が許せなくて」


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