恋は、二度目のキスのあとで―エリートな彼との秘密の関係―
「とりあえず、気分は悪くない」
「それならよかったです」
にこっと笑うと、北川さんは私をじっと観察するように見る。その瞳には少しの心配の色が混ざっているようだった。
「涙は?」
「北川さんが心配で、引っ込みました」
ふふっと笑いながら答える。
北川さんはそんな私を見て目を細め、「そうか。もう少しこうしてても?」と聞く。
こうしてても、というのは、手に触れていてもいいか、ということだろう。
リハビリだ。
「どうぞ。私からは握り返しませんから」と告げたあとで、ふふっと笑う。
「北川さんの手、ちゃんと大きいですね。顔立ちが綺麗だから、男のひとの手をしているのがなんだか意外です」
「白石の手は小さいな。いつも威勢がいいのに」
不思議そうに言われる。
そりゃあ女ですし、と言いそうになったけれど我慢した。
今、私が女性だということを意識させる必要はない。
女性ってことを意識した上で触れれば一番いいんだろうけれど、今はただ触れ合えているだけでも一歩前進だろう。
せっかく前に進めたのに、先を急いで怖がらせたくはない。
とは言っても、さすがに手に触れられながら沈黙で過ごすのも気まずく思い、話題を探す。
すぐに思いついた疑問を一度は却下しようとしたけれど、今なら話してくれるかもしれないと口を開く。
「北川さんは、昔の彼女になにをされたか聞いてもいいですか?」
私の事情も話したところだし、雰囲気的にはこの話題が一番適している気がした。
逆に言えば、今、この流れで話してくれなければ、この先も難しいかもしれない。
言ったそばから先を急ぎすぎただろうか……とハラハラしながらも待っていると、北川さんはしばらくしたあとで目を伏せた。