恋は、二度目のキスのあとで―エリートな彼との秘密の関係―


北川修司。設計部。そういえば北川さんも噂も人気も絶えないひとだ。
とは言っても、噂の種類が瀬良さんとはまるで違うけれど。

北川さんは女性が苦手らしく〝エレベーターでふたりきりになったら真っ青になって倒れた〟だとか〝バレンタインに女性社員に囲まれた時には貧血を起こして医務室に運ばれた〟だのとなんだか可哀相な噂が多い。

聞いた話では、どうやら大学の頃色々あって女性が苦手になってしまったとか、そうじゃないとか。

自分に好意のある女性が輪をかけて苦手らしく、その噂のせいで北川さんに告白する女性社員は減ったという話だ。
社内きっての美人で、しかも肉食系である宮崎さんが北川さんに想いを寄せながらも爪を噛んでいることしかできないと言うのだから、よほど女性が苦手なんだろう。

まったく、モテるのも大変だ。

「白石、交代だよ。お昼休憩とりな」

靴をそろえて上がってきた柿谷先輩に「はい」と返事をしてから、モデルハウスの受付を代わってもらう。

「午前中のお客様はゼロでした。営業からもとくに引き継ぎはありません」
「了解。部室にシュークリームがあるから食べて。部長からの差し入れだって」
「え。嬉しい。部長ってたまにそういうことしますよね」

思わぬ朗報にウキウキしながらスリッパを脱いでいると「ね。できる男だよ」と先輩の声が返ってくる。

「夕方、私アフターの電話一本入れないとだから、それくらいに交代お願いできる?」
「了解です。じゃあ十六時に来ますね」
「うん。お願い」

靴箱にしまってあった靴に履き替え、玄関の掃き掃除をしてから敷地内にある本社に向かう。

五月の空はどこまでも青く、こんな空には鯉のぼりが映えるんだろうなぁと思う。
このモデルハウスの空も、十日前までは鯉のぼりが泳いでいたけれど、つい先日、大変な思いをしながら収納したところだ。

三月にはひな人形を、十月には運動会の話題を、クリスマスにはサンタの飾りを。
この仕事をしていると子供関係の行事が頭に叩き込まれる。

そういえば……と思い出し、アフターサービスの部室に戻る前に資料室を覗くことにする。

昨日、電話がかかってきたキッチンの水漏れの件で、調べたいことがあったんだった。
今はなんでもデータに落としているしパソコン上で確認できるけれど、二十年以上前の物件となるとそうもいかない。
資料を直接確認する必要がある。

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