恋は、二度目のキスのあとで―エリートな彼との秘密の関係―
できたら同じ型のキッチンでお願いしたいとおっしゃっていたけれど、今使っている型をきちんと調べて営業担当も誰だか確認しておかないと。
そもそも古いタイプだとメーカーももう製造していないし、キッチンは受注生産の場合がほとんどだからメーカー問わず似た型をいくつか提案した方がいいかもしれない。
今在庫があるパンフレットで足りるかどうかも確認が必要だ。取り寄せるには時間がかかる。
営業担当に報告してお客様からの聞き取りは任せてあるけれど、追加資料として渡しておいた方がいい。
そう思い、資料室がある六階でエレベーターを降りる。
資料室やら会議室、書庫と、社員が常在する部屋のない六階はしんとしていて、図書館の雰囲気に似ている。
高い位置から照らす太陽のおかげで、窓からは溢れんばかりの明かりが差し込んできていた。
考えたことがなかったけれど、本社の窓の高さとかも日当たりを考えて作られているんだろうか。だとしたらさすがだ。
ハウスメーカーになんて勤めていると、いつか自分も素敵な家に住みたい……とは一応人並みに思ったりはするものの、そんな未来は今のところまったく見えない。
砂漠で見える、蜃気楼のオアシス状態だ。
グレー色をしたタイルが敷き詰められている廊下を進み、資料室の前で足を止める。
資料室は大体無人だ。誰かと一緒になったことはほとんどない。
だから、自分の部屋のドアを開けるように無造作にガチャリとドアを押し足を一歩踏み入れたのだけど、直後誰かにぶつかってしまった。
「わ……っ」
ドン、と、主に鼻先をぶつけてしまい手で押さえる。続けて、先客がいたのか……と謝ろうと視線を上げ……思わず「あ」と声が漏れた。
――これは、たぶんまずい。この至近距離は絶対にまずい。