恋は、二度目のキスのあとで―エリートな彼との秘密の関係―
「す、すみません……!」
慌てて一歩あとずさり距離をとる。
ぶつかった相手は北川さんだった。設計部の、女性がとてもとても苦手だと噂される、あの。
たっぷりとしたサイズの窓から入る明かりを背に受けている姿は、まるで後光でも差しているようだった。顔が整っているぶん、神々しさすらある。
だからうっかり見惚れてしまっていたけれど、北川さんが微動だにしないことに気づいて我に返った。
目の前で真顔のまま立っている北川さんの顔色が白く見えるのは、たぶん、気のせいじゃない。
脳裏に、今まで聞いた噂の数々が思い出されていた。
『バレンタイン、女性社員に囲まれただけで貧血起こして医務室に運ばれたんだって』
『エレベーターとか、密室でふたりきりになるのを思いっきり避けてるらしいよ。きっと倒れちゃうからとかそういうことだよね。過呼吸になったこともあるって話だし』
『電車も人が多いと距離感がツラいらしくて、早い時間に出社してるんだって』
まずい。倒れられてしまう……っ。
どうしようと焦るなか、最後に思い出された噂にハッとした。
『自分に好意があると輪をかけてダメみたい』
まるで蜘蛛の糸に思えた。
窮地に立たされた私に降りてきた、一本の救いの糸に。
その噂が本当ならば、と慌てて口を開く。藁じゃなくて、糸にもすがる思いで。
「ちょっと青くなる前に聞いてください! 大事なことを言いますから。今からとても重大な発言をしますから。しっかり聞いてください」
気が遠くなっていて、なにも聞こえない状態だったら何にもならない。
だから、動揺して揺れる北川さんの瞳が、しっかりと私を捕らえたのを確認してから続けた。