恋は、二度目のキスのあとで―エリートな彼との秘密の関係―
「私は今現在、絶賛片想い中です! 好きな人がいますから、北川さんにはまったく興味がありません。本当にこれっぽっちも。だから、当然襲ったりしませんし、これ以上近づきませんし、万が一、嘘だったらセクハラで訴えてくれて構いません。それでも足りないなら……あ、警察! 警察に突き出してくれてもいいです。偽装……? 詐欺? わからないですけど、そのへんの罪名で!」
北川さんは理系で、頭の回転が速いって聞いたことがある。
だから〝セクハラ〟とか〝警察〟って単語を聞けば我を取り戻すんじゃないだろうかと思った。
今はきっとハプニングでどこかおかしなところに飛んでしまった頭のシフトが、元の場所に戻ってくれるんじゃないかなって。
大声でおかしなことを言い出した私に、北川さんはまるで夢を覚まされたように目を開く。
そこに勝機を見出しながら「私には好きな人がいるんです」と繰り返した。
これが、北川さんの顔色を取り戻すためには効果的でも、同時に自分自身の首を絞めてしまっているとは気づかずに。
「えっと、わかります。突然カミングアウトされたって事実かどうか怪しいですよね。でも本当なんです。事実だって証明するために少しその人のことを説明しますと……その人、基本的にへらへらしてますけど、本当は優しいし、空気感っていうか、そういうのが好きで。一緒にいると、ずっとドキドキしちゃうような人なんです」
ちくりと胸がわずかに痛んだ気がしたけれど、気にせず続ける。
すらすらと言葉が出てくるのはきっと、本心だからだろう。
「高校の頃、サッカーしてるところなんて本当にキラキラしててカッコよくて……ベタですけど、普段へらへらしてる分、真剣な横顔が、ギャップっていうか、そんな感じで。なんでも片手間でできちゃうくらい器用なのに、手を抜かずにひと一倍努力するところとか、その努力を誰にも見せないところとか……好きで」
本当だと証明するために具体的に説明する。