恋は、二度目のキスのあとで―エリートな彼との秘密の関係―
「もういいのか?」
「……はい。会社前だと待ち合わせしたみたいに見られちゃいそうですけど、少し離れましたし」
本当はあまりよくない。仕事で繋がりのない北川さんと私が並んで歩いていたら、社員はもれなく疑問に思うだろう。
でも、いつまでも北川さんに後ろを歩かせておくわけにもいかない。
もしも誰かに見られた場合、〝たまたま駅まで一緒になった〟と言えば信じてもらえるだろうか。
だけど北川さんにはそもそも女性恐怖症っていう噂がある。そんな言い訳は通じないだろうなぁ……と考えながらも、隣に並んだ北川さんと一緒に歩き出す。
時間は十九時過ぎ。私的には普通だけれど、北川さん的には早い上がり時間に思えた。設計部はいつも忙しそうだから。
「今日は早いですね」
そう聞くと、「ああ」とうなずかれる。
「一件、顧客側の予算の関係で間取りの修正案を出さないといけないんだが、どうにもアイデアが浮かばないから上がることにした」
「締め切りはいつです?」
北川さんは「まだ余裕がある」と答えた。
そして、視線を進行方向に向けたまま続ける。
「その案件が終わらない限り、他の設計に手をつけてもうまくいく気がしないんだ。こういう時は一度仕事を忘れることにしてる」
「なるほど……。アイデア勝負って大変ですね」
きっと、やればやるほどアイデアが浮かんでくるというものでもないんだろう。
柱の位置だとか、決められている部分はいくつかあるとしても、大きさをほぼ変えずにいくつも案を出すのは気がめいりそうだ。
しかも、お客様の希望を入れ込まなければならないとなれば余計だ。
私も間取りを見るのは好きだけど、自分で作れと言われたら発狂するかもしれない。お客様が何千万円というお金をかけて作る一生モノの家という責任感で押しつぶされると思う。